『椿の庭(2021年4月)』

葉山の坂の上で、奈良の古民家を移築した一軒家に住む祖母と孫娘。

祖母は相続の関係から家を手放す事になるのだが、大好きな家を手放す決心をするまでが庭の草花と海と季節の移ろいとともに静かに進んでいく。「もし私がこの地から離れてしまったら、ここでの家族の記憶やそういうものすべて、思い出せなくなってしまうのかしら」と訪ねてきた夫の友人に語る。

 

「古い家」「祖母」「メンテナンス」「相続」、思い出が詰まったアリコベールも同じような経緯で、手放すことになりました。

元々のアリコベールは松本家具が似合う家でしたが、リノベーションされた家は北欧の家具で統一されています。カラースキームは全く変わってしまったのですが、外観、木製建具とフランス落とし、太い飾り梁、窓の飾り棚、木の床、漆喰の壁は丁寧に扱われていて、この写真を見ると思い出します。

 

「家とは人の記憶が宿る装置のようなものではないでしょうか。柱のキズや床の木目などふとしたものに個人的な記憶が宿ります。それが失われると、思い出すすべもなくなってしまう。普遍的な喪失はやがて、日々の積み重ねの中で和らぎ、次に進むことになります」と、どこかで『椿の庭』監督・脚本・撮影の上田義彦さんが話されていました。

空間の持つ魅力がどこにあるのか見極めそれが壊されなければ、表面的には変化してもそこでの暮らしや心地良さはいつまでも見つけることができる。『リフォームとは何か?』大切な芯を教えてもらいました。

名作建築でも有名建築家の作でも無い家を買い取り、残してくれた会社に感謝をしなくてはと思います。

HOUSE OF FINN JUHL HAKUBA(写真はホームページより)